[検証編]


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[V10] 「佐野事件」について


◇ 事件の経過
昭和52年4月29日 大洋対阪神 (川崎) 阪神7-6大洋 の9回裏大洋の攻撃、一死一塁走者野口。 打者清水の放った左中間の大飛球を、阪神の佐野仙好左翼手が捕球、 その直後にフェンスに激突して痙攣(ケイレン)してしまった(前頭部頭蓋線状骨折)。
池辺中堅手はそれを見てタンカを要請。田中左翼線審はアウトを宣告した後、 タイムはかけずに救援を求める仕草。阪神の選手もベンチも皆駆け寄る。 その間に、一塁走者野口がタッチアップして一気にホームイン、同点になった。 (記録は当初は佐野の失策だったが、後日に野手選択に訂正)
阪神側は規則に書かれた「突発事故」にあたるとしてタイムをかけるべきと抗議。 これが審判団に受け入れられず、34分間の中断後、「提訴を条件」に試合を再開。 結局時間切れで7-7の引き分けになった。

◇ 規則の検証
提訴を受けたセ・リーグは考査委員会を開き、これは規則で定めたところの タイムをかけるべき突発事故にはあたらないと結論、阪神の提訴を却下。
規則5.10にタイムをかけるケースが示されていて、(c)には 「突発事故により、プレヤーがプレイできなくなるか、あるいは審判員が その職務を果たせなくなった場合」と書かれている。
これだけならば、佐野選手の激突事故はタイムをかけるケースに思えるが、(h)には 「審判員はプレイの進行中に、"タイム"を宣告してはならない。ただし、本条(b)項、 または(c)項の〔付記〕に該当するときは、この限りではない」と書かれている。
(b)項はライトの故障の場合。(c)項の〔付記〕とは、本塁打や死球などにより、 走者に安全進塁権がある場合の不慮の事故の場合。 つまり、プレイ中にタイムをかけられるのはこの二つに限られる。 また、前記の(c)項の本文の「突発事故」も、攻撃側を想定したものであった。
よって、佐野選手の事故はタイムをかける場合には当てはまらず、 審判がタイムをかけなかったのは正しい処置であると結論づけられ、 阪神の提訴は取り下げられた。

◇ 人道的処置
規則の解釈上は正しい処置であったが、これと同時に人道上の問題として 規則を再検討することも声明。
これを受けて、そのシーズン終了後の規則委員会で、 人命に関わるような事態が生じた場合は、審判はプレイ中であっても "タイム"をかけることができ、その後の処置はボールデッドにならなかったら どうなったかを審判が判断する、という内規を設けることになった。
また、この事件が全ての球場がラバーフェンスとなるきっかけになった。


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